だんまりくらべ
再話:たまの まさと

 昔、あるところに爺と婆とあった。

 あるとき、爺と婆は隣から牡丹餅を七つもらった。

 さっそく爺が一つ食べると、婆も一つ取って食べた。

 また爺が一つ食べると、婆も一つ食べた。

 その次また爺が一つ食べると、婆も一つ食べた。

 牡丹餅は一つだけになった。

 爺は、牡丹餅を取ろうと手を伸ばしたが、途中で引っ込めた。

 婆もやっぱり、伸ばしかけた手を引っ込めた。

 婆が言った。

 「お爺さん、だんまりくらべをしようじゃありませんか」

 「勝った方が、この牡丹餅を食べるのだね」

 「そうですよ」 婆が、こっくりと肯いた。

 だんまりくらべが始まった。

 夜になった。

 爺はすることもないので、布団に入った。

 続いて婆も布団に入った。

 そして、黙ったまま、二人とも牡丹餅とにらめっこしていた。

 夜が更けるころ、この家に泥棒が押し入った。

 泥棒は米やら茶碗やら盗み出すと、風呂敷に包んだ。

 それから、よっこらしょと背負い、歩き始めたところで牡丹餅を見つけ、手を伸ばした。

 その途端、我慢できなくなった婆が、ありったけの声で叫んだ。

 「ど、どろぼぉぉっ!」

 いきなり大声を出された泥棒は、風呂敷包みを投げ出して、逃げていった。

 「お婆さん、私の勝ちだよ」

 そう言って、お爺さんは美味そうに牡丹餅を頬ばった。

 お仕舞い。

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